STORY

水引折方とは
水引折方とは、折方(おりかた)によって包まれた贈答品に水引を掛け、結びによって想いや意味を託す、日本独自の礼法です。
607年、遣隋使として隋へ渡った小野妹子が帰国する際、隋の答礼使から贈られた献上品に結ばれていた紅白の麻紐——これが水引のはじまりとされています。その結びには、「無事に日本へ帰ることができますように」という祈りが込められていたと伝えられています。
以来、水引折方は、冠婚葬祭など人生の節目における贈答や儀礼の場で用いられ、結び方によって意味を持ちながら、祝意や祈り、願いを伝え、人と人との関係を結んできました。

見えない線に導かれて
幼い頃から細かな手仕事が好きだった私は、成長するにつれて美術や日本文化に関心を持つようになりました。とりわけ私を惹きつけたのは「線」の存在です。
白い半紙にたゆたうような、筆書きのかな文字の線。繊細なレース編みを構成する糸の線。かぼそく頼りなく見えるそれらの線が、まるで命を吹き込まれたように美しいかたちを描いてゆくさまが好きでした。
そして水引を学び始めた時、不思議なほどにしっくりくる感じが私を包んだのです。
心をしずめて指先に神経を集中し、和紙や水引の声を聴くように手を動かしてゆく。その行為は私を深く癒してくれるものでした。
「この道で生きていこう」、そう決心し、翌年には個人で作家活動をスタート。
その後は、京都への移住、手づくり市への出店、さまざまな人との出会いと、まさに1本の線に導かれるようにものごとが動いていった気がします。

水引とケルト文様、
その無限と神秘のイメージを追いかけて
もうひとつ、水引に出会う前から私を惹きつけてやまないのが、ケルト文様です。
大学卒業旅行で訪れたヨーロッパで、初めてケルト文様を見た時、不思議と心が吸い寄せられました。10年後に水引を学び始めた時、どこか懐かしい記憶をくすぐられる気がしたのは、そのせいだったかもしれません。
古くから伝わるケルト文様には、なぜか水引の基本結びである“あわび結び”とそっくりな形が描かれています。1本の線が「結び」によって変容することで立ち現れるかたち。そこに宿る無限と神秘のイメージには、古代と現代の隔たり、西と東の隔たりも軽々と超えていく力があります。
私は水引作家として、いつかその無限と神秘のイメージを自分の手で捉えてみたいと思うのです。

ものづくりと、探究と
創作のかたわら、力を入れていきたいのは古い水引折方の探究です。
日本の水引折方は陰陽五行思想と切っても切れない関係にあり、人々はその結び目に特別な力が宿ると信じました。
私はそんな昔の人々の祈りと願いが込められた手わざを、古い水引折方をひもとくことで感じとり、語り継いでいきたい。
そしてそんな探究の楽しみを、志を同じくする仲間と分かち合っていきたいのです。見えない線に導かれるように—— 水引と私の旅はまだまだ続きそうです。